慶應SDMでは、イノベーティブに考えるためのアプローチとして「システムxデザイン思考」の教育・研究を進めております。この中で、「システムxデザイン思考における”システム”とは何か?」という質問をよく聞きます。これについて書きたいと思っております。
これは、正確には、「システム思考xデザイン思考」ではなく、「”システムxデザイン”思考」であり、システム思考とデザイン思考とが分離できないと考えております。よくある勘違いとして、「この手法はシステム思考」で、「この手法はデザイン思考」という理解かと思います。しかしながら、実際は、システム的に考えることと、デザイン的に考えることが融合しているため、分離できないので、「システムxデザイン思考」という言い方をしております。
では、システムxデザイン思考における”システム”とは何か?
これは、「ゴールを設定した時に、それを実現するシステムをデザインするアプローチであるシステムズエンジニアリング」にベースを置いていることによります。
システムズエンジニアリングでは、「目的到達へ至るのためのアプローチと用語の共通化」をしてくれています。ですので、「”イノベーティブに考える=今ないものを考える”ことを目的として設定する」と、そこに至るまでのシステム(=思考の流れ)をデザインすることができるようになります。
これにより、「思いつくのではなく、考えつく(狙ってイノベーティブに考える)ために、思考の流れをデザインする」ことができるようになります。
そして、無意識のバイアスを超えてこれを実現するためには、多様性が必要となります。多様な人が集まって議論をすると、そのバックグラウンドの違い、用語の違いなどから、議論がかみ合わなくなります。特に、新しいものを考えるときには、抽象度の高い議論をする必要があります。抽象度の高い議論を、背景・用語の違う多様な人々でおこなうのは本当に難しいです。では、どのようにするのか、このために「可視化」を活用します。抽象度の高い概念を、抽象度が高いまま、具体的に議論をおこなうためには、可視化が大変有効に作用します。つまり、抽象度の高い概念を、四角と線で表現すれば、「この四角(ステークホルダ)とこの四角(ステークホルダ)との間にはこのような線(関係性)があることになっているけど、もっとこういった線(関係性)もあるんじゃないか」といった具体的な議論に落とし込むことができます。このときに、いわゆる手法というものを活用します。手法はある限定された範囲(視点)において、可視化することを支援してくれます。手法が大切なのではなく、多様な人々で抽象度の高い議論をするために活用できるので、活用しているということです。
また、この範囲(視点)を限定して、分けて議論することもポイントになります。システムズエンジニアリングでは、「機能と物理を分離して考える」ことをよくいいます。これは、視点を分離すると、考えられる解空間を広げることができるからです。例えば、「レーザーポインタ」を「レーザーポインタ」として考えると、単一の製品でしかありませんが、「場所を指し示す機能」とそれを実現する物理としての「レーザーポインタ」として分離して考えると、「場所を指し占める機能」は、「レーザーポインタ」でなくても「指し棒」でも、「マウスのポインタ」でもいいということなります。つまり、ある機能を実現する物理の解空間を広げて考えることができます。
さらに、可視化をして議論を進めていると、どのように考えて、現在のところをにきているのかを可視化することができます。さらに、試してみてだめだったときに、少し戻って他の方向に向かっていく時にも、これまでどっちの方向で失敗してきたのかなどがわかるようになります。これを思考のトレーサビリティとよんでいます。思考のトレーサビリティをとることで、イタレーションを繰り返す中でSpiral Upしていくためのベースとすることができます。
そして最後に、対象を単に点で考えるのではなく、仕組みとして考える(アーキテクチャとして考える)ということになります。仕組みを作る・仕組みを変えることをしていかないと長く続くものにならないためです。
以上のように、システムxデザイン思考のシステムというのは、簡単ではないのですが、少しでも感じとっていただけるとうれしいです。